恥辱の水泳少年 第1章「屈辱のロッカールーム」1話

中学の水泳部の更衣室は、湿ったタイルの床に水滴がぽたりと落ちる音が響き合い、どこか冷たく静かな雰囲気を漂わせていた。

練習を終えたばかりの生徒たちの笑い声や足音が遠くに聞こえるなか、

中学2年にしてエースを任される純一はロッカーの前でタオルを手に持っていた。

肩に残る水滴を拭きながら、彼は鏡に映る自分の姿を一瞥する。

引き締まった体、整った顔立ち、そして中学2年生とは思えない落ち着いた佇まい。

水泳部のエースとして、誰が見ても非の打ち所がない存在だった。

文武両道、容姿端麗――

純一自身もその評価にふさわしいプライドを持っていた。

ただ、心の奥底に隠し続ける秘密があった。

それは誰にも言えず、決してバレてはいけないものだった。

 

「純一先輩、今日の練習はどうでしたか?」

背後から控えめな声が聞こえ、純一は振り返る。

そこには村田が立っていた。

中学1年生の後輩で、スリムな体型に少し幼さが残る顔立ち。

彼もまた純一ほどではないが整った容姿をしており、クラスの女子には人気があるらしい。

村田はタオルで髪を拭きながら、純一を見上げていた。

その目は純粋そのものだ。

村田はいつもこうだった。

純一に対して敬語を使い、丁寧に接する。

純一を慕っていることは明らかで、その態度は後輩として申し分なかった。

 

「悪くなかったよ。タイムもまずまずだったし」

純一は淡々と答えると、タオルを肩にかけ、ロッカーに手を伸ばして制服を取り出した。

泳ぎ終わりの疲れが心地よく体に残っている。

彼は自分の泳ぎに自信があったし、それが他人に認められることも当然だと思っていた。

「村田、お前はまだスタートのタイミングが遅い。もっと水に飛び込む瞬間の勢いを意識しろ。じゃないと、後半で取り戻すのがきつくなるぞ。」

「はい、先輩。確かにその通りだと思います。次からはもっと気をつけます」

村田は素直に頷き、タオルを手に持ったまま純一の言葉をじっと聞いていた。

口調は柔らかく、従順そのものだ。

水滴が彼の細い首筋を伝い落ち、タオルで拭う仕草さえ丁寧に見えた。

純一はその様子を一瞬見つめ、軽く頷く。

 

村田のこの態度は、純一のプライドをくすぐるものだった。

後輩が自分を敬い、意見を素直に受け入れる――

それこそがエースとしての地位を裏付けるものだと、彼は無意識に感じていた。

 

会話が一段落し、純一は競泳パンツを脱ぐ準備を始めた。

いつもこの瞬間が彼にとって最も緊張する時だった。

 

誰かに見られるわけにはいかない。

秘密を守るためには、どんな些細な隙も許されないのだ。

 

彼はタオルを手に持ち、素早く腰に巻きつける。

競泳パンツを脱ぐ動作を隠すように、タオルを前でしっかりと押さえていた。

慎重に、かつ自然を装って、、。

ロッカーの扉を盾にしながら、彼は片手でパンツを下ろし、もう片方の手でタオルを調整する。

完璧だ、これなら誰も気づかない――そう思った瞬間だった。

 

「先輩、タオル落ちそうですよ」

村田の声がすぐ近くで聞こえ、純一は一瞬動きを止めた。

反射的にタオルを握り直そうとしたその時、手元がわずかに緩み、タオルの隙間が開いた。

ほんの一瞬、ほんの一秒にも満たない刹那だった。

だが、その瞬間を村田の視線は見逃さなかった。

 

純一の隠していた部分が、彼の目にしっかりと映り込んでしまったのだ。

村田の瞳がわずかに細まり、目を凝らすように純一を見つめた。

その視線は鋭く、まるで獲物を捕らえた猟犬のようだった。

そして、彼の唇の端に小さな笑みが浮かぶ。

それは純粋さや敬意とは程遠い、どこか冷たく、嘲るような笑みだった。

純一はまだその視線に気づいていない。

タオルを慌てて直し、タオルの中で競泳パンツを完全に脱ぎ捨てると、制服の下着に手を伸ばしていた。

しかし、村田の視線は動かない。

純一の隠された秘密にしっかりと捕らえられていた。

 

「……あれ、もしかして純一さんって、意外と小さかったりしますか?」

村田の声が静かに響いた。

 

普段の敬語とは微妙に異なる、どこか挑発的なニュアンスを含んだ口調だった。

純一は一瞬、耳を疑った。

聞き間違いかと思ったが、村田の顔を見た瞬間、それが現実だと悟った。

後輩の目に浮かぶのは、純粋な慕情ではない。

何か別の感情――サディスティックな愉悦に近い光だった。

 

純一の顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。

羞恥と怒りが一気に沸き上がり、彼は声を荒げて反論した。

「は!? お前、何を言って….!」

純一の声は更衣室に響き、タイルの壁に反響して少し震えた。

顔は真っ赤に染まり、普段の冷静さや自信はどこかへ消えていた。

彼はタオルをぎゅっと握り直し、村田を睨みつける。

心臓が早鐘のように鳴り、頭の中は羞恥と怒りで混乱していた。

 

村田に見られた――その事実が、彼のプライドを鋭い刃のように切り裂いていた。

でも、もしかしたら見間違いかもしれない。

村田がはっきりと気づいた証拠はない。

そう自分に言い聞かせ、なんとかこの場を切り抜けようと必死に頭を働かせた。

村田は純一の反応をじっと見つめていた。

唇の端に浮かんだ小さな笑みは消えていないが、それは嘲笑とも親しみとも取れる曖昧なものだった。

彼はタオルを手に持ったまま、ゆっくりと首を傾げる。

 

純粋そうな瞳が純一を捉え、その視線はまるで彼の内側を探るように鋭かった。

「いや、別に何ってわけじゃないですよ、先輩。ただ……」と、村田は言葉を一旦切り、意味深に間を置いた。

「なんか、意外な感じがしただけです。純一先輩って、なんでも完璧ですごいなって思ってたから」

村田は静かに微笑みながらそう答えた。

 

「い、意外? 何が意外なんだよ」

純一は声を低くして言い返すが、その口調には動揺が滲んでいた。

村田の言葉は曖昧で、直接的な指摘を避けている。

それでも、その裏に隠された意図が純一を苛立たせ、焦りを募らせた。

タオルを腰に巻いたまま、彼はロッカーに背を預け、制服の下着を手に持つ。

早く着替えてしまえば、この会話から逃げられるかもしれない。

そう思って手を動かそうとしたが、村田の次の言葉がそれを止めた。

 

「いや、ほんとになんでもないですよ。ただ、先輩の泳ぎ見てると、ほんと隙がないじゃないですか。体も完璧だし、タイムも抜群だし。だから、なんか……そういう部分まで完璧なのかなって、勝手に想像してただけです」

村田は肩をすくめ、軽く笑った。

言葉自体は褒めているように聞こえるが、そのトーンには微妙な棘があった。

純一の耳には、それがまるで「でも、そうじゃなかったね」という暗黙の続きを含んでいるように感じられた。

彼は唇を噛みしめ、なんとか平静を装おうとする。

「想像? お前、変なこと考えるなよ。俺が完璧かどうかなんて、お前に関係ないだろ」

「そうですね、先輩の言う通りです。僕には関係ないですもんね」

村田は素直に頷き、タオルを肩にかけた。

だが、その目が一瞬、純一の下半身を覆うタオルの方へ滑った。

ほんの一瞬の動きだったが、純一はその視線を見逃さなかった。

心臓が跳ね上がり、喉が締め付けられるような感覚が襲う。

見られた。絶対に見られた。

そして、村田はそれを知っていて、わざとぼかしながら話を進めているのだ。

純一のプライドが悲鳴を上げていたが、彼はなんとか反撃に出ようと声を絞り出す。

「関係ないなら、変なこと言うな。泳ぎのこと以外で俺に絡むなよ。分かったか?」

声に力を込めて威圧的に言ったつもりだったが、どこか上擦っているのが自分でも分かった。

村田は「はい、分かりました」と柔らかく答えるが、その表情には微かに満足げな色が浮かんでいた。

明言はしない。はっきりとは言わない。

でも、その曖昧さが純一をじわじわと追い詰めていく。

純一はタオルを握る手に力を込め、早くこの場を終わらせようと制服に手を伸ばした。

だが、心の中では、村田の視線と笑みが焼き付いて離れず、焦りと羞恥が渦巻いていた。

 

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